僕の前に置いてあるテレビが、さっきからずっと天気予報を流している。もうかれこれ30分くらいになるだろうか。天気予報といっても同じ内容がずっと流れているわけではない。どこの言葉かもわからないような言語で語られる天気予報まであるし、日付だって何年も前のものから未来のものまで存在する。つい最近にテレビCMだけが10分間流れ続けるというものを見たことがあったが、それ以上に違和感のある映像だった。マスターはそれをなんとも思っていないかのように、鼻歌を歌いながら洗ったばかりのコーヒーカップを拭いている。
「ねぇ、マスター?」
あまりの違和感に耐え切れなくなって僕はマスターに声をかけた。
「ん?どうしはりました?」
マスターは拭いていたコーヒーカップを置き、カウンターの奥から出てきた。マスターの関西弁はお笑いタレントが使っている関西弁よりもずっと柔らかい感じがする。マスターいわく「京都の出身やからとちゃいますか?」だそうだ。
「このテレビ、さっきから天気予報ばっかり流れてるんですけど、これはこういうビデオか何かなんですか?」
僕の質問にマスターはちょっと困ったように頭を掻きながら答えた。
「こんなん言うんも気が引けるんですけど、このテレビ、私が拾ってきたんですわ。雨の日にね、なんかめっちゃ寂しそうに捨てられとったんでつい…。拾ってきてちょっと直してやったら、どこから集めてくるんか知らんけど、こんなふうに天気予報ばっかり流すようになったんですわ。雨の中に捨てられたことがよっぽどショックやったんやろうなぁ」
よくよく聞けば、雨の予報が流れるときは少しだけボリュームが下がる。下がる、というよりは声が低くなる。あからさまに雨の予報を嫌がってるのがわかって、ちょっと微笑んでしまう。
「マスター、明日、晴れますかね?」
残っていたコーヒーを飲み干しながらカウンターの奥に戻ろうとしているマスターの背中に向かって聞いた。
「さぁね、テレビに聞いておくれ」
マスターの表情は見えなかったが、たぶんいつものように目を細めて優しく微笑んでいるんだろうなと思った。
ここは『カフェ・サンチャルネスト』。
ちょっと落ち着いた空間に、非日常が宿る場所。
To Be Continued ...
「ねぇ、マスター?」
あまりの違和感に耐え切れなくなって僕はマスターに声をかけた。
「ん?どうしはりました?」
マスターは拭いていたコーヒーカップを置き、カウンターの奥から出てきた。マスターの関西弁はお笑いタレントが使っている関西弁よりもずっと柔らかい感じがする。マスターいわく「京都の出身やからとちゃいますか?」だそうだ。
「このテレビ、さっきから天気予報ばっかり流れてるんですけど、これはこういうビデオか何かなんですか?」
僕の質問にマスターはちょっと困ったように頭を掻きながら答えた。
「こんなん言うんも気が引けるんですけど、このテレビ、私が拾ってきたんですわ。雨の日にね、なんかめっちゃ寂しそうに捨てられとったんでつい…。拾ってきてちょっと直してやったら、どこから集めてくるんか知らんけど、こんなふうに天気予報ばっかり流すようになったんですわ。雨の中に捨てられたことがよっぽどショックやったんやろうなぁ」
よくよく聞けば、雨の予報が流れるときは少しだけボリュームが下がる。下がる、というよりは声が低くなる。あからさまに雨の予報を嫌がってるのがわかって、ちょっと微笑んでしまう。
「マスター、明日、晴れますかね?」
残っていたコーヒーを飲み干しながらカウンターの奥に戻ろうとしているマスターの背中に向かって聞いた。
「さぁね、テレビに聞いておくれ」
マスターの表情は見えなかったが、たぶんいつものように目を細めて優しく微笑んでいるんだろうなと思った。
ここは『カフェ・サンチャルネスト』。
ちょっと落ち着いた空間に、非日常が宿る場所。
To Be Continued ...