雨上がりの晴れた空が好きだ。空気中に浮かんでいる小さな塵を雨が洗い流してくれるせいで、いつもは見えないずっとずっと遠い向こうも見えるような気がするから。だから僕はよく、雨上がりに出かける。河川敷を歩いたりしながら、雨上がりでなければ見つけられないものを探しに行く。

「ほんと、好きだよね、雨は嫌いなくせに」

雨上がりの河川敷を歩きながら隣を歩いていた美紀がぼやいた。付き合いだした頃はヒールの高い靴を好んで履いていた美紀だったが、僕がこんな変な癖をもっているせいで、いつのまにかジーンズとスニーカーが定着していた。でもそんな美紀のほうが好きだ。美紀は美紀で僕と付き合いだしてから写真を撮るという趣味を持った。なんでも、僕が雨上がりに空を見ているところの写真を撮りたいと思ったのが始まりらしい。

カシャッ、カシャッと絶え間なく聞こえてくるBGMもいつしか空を見るときの習慣となった。空を遠い目で見上げる男とそれを撮りまくる女。見た目には異様な光景かもしれないが、たぶんそれが僕らのコミュニケーション。

「あ、飛行機雲!」

嬉しそうにそう叫ぶと、美紀はカメラを空へと向けた。飛行機雲に美紀のレンズを奪われたことにちょっと嫉妬しながら、僕は目の前にある水溜りを飛び越えた。水溜りには空が映り、僕は空を飛び越えたような気持ちになる。飛行機雲は空のずっと向こうから、たぶん反対側のずっと向こうまで続いていくんだろう。

Fin