大学に入って2年半が経とうとしている。高校の頃から付き合い続けている彼女との遠距離恋愛は、何度も危機を迎えながらもなんとか続いているという状態だ。寂しさをまぎらわすためにと大学入学とともに始めたギターは、ギターサークルで練習を重ねたこともあり、ずいぶんと上達してきたと思える。

「藤田先輩、来週の日曜日ってお暇ですか?」

いつものように文学部の非常階段に座り練習をしていた僕に、いつのまにか前に立っていた後輩の持田悠子が予定を聞いてきた。どうせサークルで集まってなんかしましょうというようなお誘いだろう。これまでも2ヶ月に一度はそんなふうにしてサークルで集まってバカ騒ぎをしてきた。

「あいてるけど、また飲み会でもしましょうって感じ?」

僕は軽くギターの弦を弾きながら微笑むように答えた。しかし、その瞬間、持田はちょっと困ったような顔をして、小さな声で答えた。

「え、あ、いや、ちょっと違うんです。ギター、新しいの買おうかなって思ったんで、一緒に見にいってもらえないかなって思って…」

意外だった。ギターを買うだけなら、女の先輩だってたくさんいるというのに。僕は照れ隠しに弦をつまんでピンッという音を何度も立てては止めながら、自分に冷静になるように言い聞かせていた。

「いいけど、俺でいいの?そんな持田に教えられるような知識があるとも言いがたいけど…」

OKというニュアンスを出したものの、どこか煮えきらずモゴモゴと言い訳を続けようとする僕の言葉を持田が強い口調でさえぎった。

「先輩がいいんです」

あまりにストレートな言葉を投げつけられて、僕は言葉を失った。走り去っていった持田が曲がった角の向こうから、後輩の女の子たちの声だと思われるはしゃぎ声が聞こえてきた。

僕は誰に向けるでもなく小さく微笑んだ。彼女への罪悪感は不思議となかった。手にしたギターを抱えなおすと、僕は何事もなかったかのように再び練習を始めた。

「"未来はいつだって未定"か…」

昨日買った詩集に書いていた言葉を思い出した。

Fin